4v4+3 グアルディオラ・ロンド
ジョゼップ・グアルディオラがバイエルン・ミュンヘンやマンチェスター・シティで常用する、ポジショナルプレーの根幹を成す伝説的なドリルです。世界最高峰のクラブで毎日実施される、7対4の数的優位を活用したボール保持とライン突破のトレーニング。
分析と理論的背景
このドリルは、グアルディオラの戦術哲学「Juego de Posición(ポジショナルプレー)」の縮図です。攻撃側は常に数的優位(7対4)を保持していますが、狭いスペースと高い守備強度により、単純にパスを回すだけでは守備を崩せません。ここで求められるのは:
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中央ピボットの活用: 外周だけでボールを回すのは簡単ですが、試合では無価値です。中央のフリーマン(ピボット)を経由することで、守備ブロックの「内部」を通過し、相手の守備基準を崩します。
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スプリット(ライン突破): 守備者の間を通すパスは、一瞬で守備ラインを無効化します。これは試合における「ゾーン14からのラストパス」や「DFライン間へのスルーパス」に直結します。
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Provoke & Release: 守備者を引きつけてスペースを作り、そのスペースへパスを出す。この「誘引→解放」のリズムが、ポジショナルプレーの本質です。
トレーニング仕様
目的
・攻撃: 数的優位の活用、中央ピボットの使い方、「引きつけて離す」判断、ライン突破(スプリット)意識。 ・守備: 4人の連動守備、プレッシング強度、カバーシャドウ。
設定
・グリッドサイズ: 15m x 15m(レベルにより15m x 20mに拡大可能)。 ・配置: 外周に攻撃側4名、内側に守備側4名、中央縦ラインにフリーマン3名を配置。 ・用具: マーカーコーン4つ、ビブス(チーム分け用)、ボール複数個。
人数
・攻撃側: 4名(外周)+ フリーマン3名(中央)= 計7名 ・守備側: 4名(内側) ・合計: 11名
時間
・セット: 2〜3分(守備側の負荷が高いため)。 ・合計: 15〜20分(攻守交代を含む)。
ルール
- 外周の4人と中央のフリーマン3人でポゼッションを行う(7対4の数的優位)。
- 守備側がボールを奪ったら、グリッド外へドリブルアウトするか、コーチへパスを出す(攻守交代のトリガー)。
- スプリットルール: 守備側4人の間を通すパス(スプリット)を成功させた場合、パスカウント2倍または守備側に追加ペナルティを課す。
- タッチ制限: 通常2タッチまたはフリータッチ。レベルに応じて1タッチ(ダイレクト)限定も可能。
コーチングポイント
攻撃側
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Provoke & Release(引きつけて離す): ボールホルダーは守備者を自分に食いつかせ(Provoke)、守備者が寄ってきた瞬間に空いた味方へパスを出す(Release)。これが数的優位の活用法。
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中央ピボットの活用: 外周だけで回すのではなく、勇気を持って中央のフリーマンを使う。フリーマンは常に「ボールホルダーの逆サイド」へ移動し、リンクマン(繋ぎ役)として機能する。
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ハーフターンで受ける: 中央の選手は半身(ハーフターン)で受け、次のパスを逆サイドへ展開できる体の向きを作る。ピッチ全体が視野に入る姿勢が鍵。
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スプリットを狙う: 守備者の間(スプリット)を通すパスは、守備ブロックを一瞬で無効化する。常にこのオプションを第一に考える。
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三角形の形成: ボールホルダーに対して常に2つ以上のパスラインを作る。外周の選手も、中央のフリーマンも、動的に三角形を形成し続ける。
守備側
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4人の連動: 守備側は1人がボールにアプローチする際、残り3人は「カバーシャドウ」でパスコースを消す。フラットにならず、段差(Stagger)を作る。
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スライド: ボールが移動したら、守備ブロック全体が素早くスライドする。個人で追うのではなく、ブロックとして移動する。
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中央を閉じる: 最優先は中央(フリーマン)へのパスコースを消すこと。外周だけで回させることは許容するが、内部を通されたら即座にリセット(交代)。
プログレッション(難易度調整)
易しくする
- グリッドサイズを拡大(20m x 20m)
- フリータッチ許可
- 守備側を3人に減らす(7v3)
難しくする
- グリッドサイズを縮小(12m x 12m)
- 1タッチ限定(ダイレクトパスのみ)
- スプリット成功で攻撃側に追加ポイント
- フリーマンも2タッチ制限
実戦への応用
このドリルは、試合における以下のシーンに直結します:
- 中盤でのボール保持: 相手のプレスを受けながら、ボールを失わずに前進する局面。
- ゾーン14の活用: 中央の危険なエリア(ゾーン14)にいるピボットを経由して攻撃を組み立てる。
- 守備ブロックの突破: DFライン間やMFライン間を通すパス(スプリット)で守備組織を無効化する。
マンチェスター・シティやバルセロナの試合を見ると、このドリルで練習した動き(ピボット経由→逆サイド展開→スプリット)が何度も繰り返されていることが分かります。
参考資料
- FIFA Training Centre - Spain Training Session
- Guardiola Rondo Explained (YouTube)
- Man City Training - Rondo Variations (YouTube)
まとめ
4v4+3ロンドは、単なるウォーミングアップではなく、グアルディオラの戦術哲学を体現する「ミニゲーム」です。このドリルを毎日反復することで、選手たちは「数的優位をどう活用するか」「中央をどう使うか」「いつスプリットを狙うか」という判断を自動化していきます。世界最高峰のクラブが毎日行う理由が、ここにあります。