実践での使い方
プル・アウェイは「近づいて離れる」マーク外しの基本原理だ。一度ボール方向へチェックしてマーカーを引き寄せ、直後にファーサイドへ大きく外れる。DFは「近づいた」情報を処理している間に、FWは既に遠ざかっており、判断が0.5秒遅れる。この時間差を利用してファーポストでフリーになる。ディディエ・ドログバやロベルト・レヴァンドフスキが得意とし、バックポストへのクロスで大量得点を挙げた技術だ。重要なのは「本当に近づく」演技力で、ボールを受けるつもりで動かなければ、マーカーは騙されない。体重移動、手の動き、視線すべてで「受ける」を表現する。
トレーニング方法と技術要件
まず「近づく→離れる」のタイミングを習得する。クロッサーがボールをコントロールした瞬間に近づき、クロッサーが顔を上げた瞬間に離れる。練習では実際にマーカーをつけ、チェックイン→プルアウェイの動作を反復する。マーカーは「必ずついていく」指示を受けており、FWは2-3mのセパレーションを確実に作る技術を磨く。週2回、ファーポスト専用メニューを組み、様々な高さと速度のクロスに対応できる感覚を養う。次に「ファーでのフィニッシュ技術」が必要だ。ファーポストは角度が悪いため、ボレーやヘディングでコースを作る精度を高める反復練習を行う。
使用タイミングと代替案
使用タイミングは相手が「人にマークがつく」状態の時だ。ゾーンディフェンスではプルアウェイの効果が薄く、マンツーマン気味の相手に対して威力を発揮する。また試合の後半、相手DFが疲れて足が重くなっている時に仕掛けると、離脱についてこられない。ただし相手が「ボールウォッチャー」でFWの動きを見ていない場合、プルアウェイは無意味になる。その時の代替案は「ファー滞在」だ。最初から遠い位置に留まり、ファーへのクロスを待つ。あるいは「ニア転換」で、一度ファーに離れてから急にニアへ戻ることで、逆の発想でマーカーを外す戦術もある。
よくある失敗と修正方法
最も多い失敗は「離れすぎて、シュート角度が悪化する」ケースだ。これはファーポストから2-3m内側で止まる意識を持つことで修正される。次に「チェックインが浅すぎて、マーカーを引き出せない」失敗がある。これは最低でも5mはボール方向に近づき、マーカーに「本当に受ける」と思わせる演技力を高める必要がある。また「クロスのタイミングとズレる」失敗も多く、これはクロッサーとの合図を事前に決め、クロッサーが蹴る0.5秒前にファーポストに到達するタイミングを体得する。ファーでのフィニッシュも難しく、体を開いてゴール方向へ運ぶコントロール技術を磨く。
バリエーションと応用
基本形は中央からファーへのプルアウェイだが、ニアからファーへも応用できる。ニアに立っていた選手が突然ファーへ大きく移動することで、守備は完全に対応を失う。また「ダブルプルアウェイ」という高度な技もあり、一度ファーに離れてから再び中央に戻り、再度ファーに離れる二段階の動きだ。さらに「V字プルアウェイ」では、ニアに近づいてから急角度でファーへ離れるV字の軌道を描き、マーカーがついてこられない。ハリー・ケインが多用する「遅延プルアウェイ」は、わざと遅れてファーに入ることで、DFが先にポジションを取った後の空いたスペースに滑り込む最上級の空間認識力だ。