シェフィールド発祥のオーバーラッピングCBをトップクラブ仕様に。1トップ相手に有効。
ワイドCBの「オーバーラップ」による数的優位
3バックのワイドCBが外を回ってサイドで数的優位を作る。余りやすいワイドCBを武器化。
保持
ワイドCBがフリーでボールを持つ。
アクション:
- WideCB ボール保持、フリーで運ぶ
追い越し
WBが内側に入り、CBがその外を回る。
アクション:
- WB 内側へ
- WideCB 外を回ってオーバーラップ
崩し
2v1/3v2を作りクロス/侵入。
アクション:
- WideCB オーバーラップ後クロス/スリップ
リスク
ロストでサイド裏が広大に空く/逆サイドのリスクケアが必須。
対策
1. 前進役をWBに戻しCBは安定を優先 2. IHを外に落として同じ優位を作る
参考リンク
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数的優位戦術:ワイドCBオーバーラップの活用
パターンの背景
「ワイドCBのオーバーラップ」は、シェフィールド・ユナイテッドが開発し、現代の 3CB システムで採用される戦術です。通常「余剰戦力」と見なされるワイドCBを、積極的に攻撃に参加させることで、サイド局面での数的優位を強制します。
基本的仕組み
3CB フォーメーション
標準ローブロック:3CB + 5 人MF + 2 人FW
数的配置:
CB-CB-CB
WB WB
IH-CM-CM-IH
FW-FW
オーバーラップによる変化
左サイド攻撃時:
初期:
CB(L)-CB(C)-CB(R) WB(L) が SB(相手) に対面
WB(L) 1v1 の局面
オーバーラップ後:
CB(L)が外を回る
→ WB(L) が内側へ
→ CB(L) + WB(L) で相手 SB へ 2v1
結果:
左サイド = 2v1
右サイド = CB(R) + WB(R) で防御維持
実行メカニズム
段階 1:ボール保有と WB のサポート
- ボールが左サイドに位置する
- WB(L) が相手 SB へのドリブル or パス受け取り開始
段階 2:CB(L) の走路確保
- CB(L) が後方から外を回るコース取り
- 相手 FW または相手 IH がマーク対象(CB(L) に注意)
- しかし距離が 15-20m のため、即座の対応が困難
段階 3:オーバーラップ実行
- WB(L) がボールを持った状態で前進
- 同時に CB(L) が外側を回ってくる
- 相手 SB は「WB(L) をマークするか、CB(L) をマークするか」の選択を強制
段階 4:2v1 での崩し
シナリオ A:相手 SB が WB(L) をマーク → CB(L) がマークフリーで高い位置でボール受け取り → クロス or シュート
シナリオ B:相手 SB が CB(L) をマーク → WB(L) が 1v1 で相手 SB を下ろす → ペナルティエリア近くでのスペース創出
戦術的効果
局地的数的優位
- 通常:SB vs WB の 1v1
- オーバーラップ後:SB vs (WB + CB)の 1v2
- 数的優位の強制度:100%
守備の深さの喪失
- 相手 SB が外側の CB(L) をマークするために
- ペナルティエリア内の守備が手薄に
- 中央へのスペース創出
FW への支援
- CB(L) がクロスを入れる場合、その質が高い
- CB は高さのある選手が多いため、正確なクロス可能
技術的要件
ワイドCB の要件
- 走力:外を回るスプリント能力
- ボール操作:高い位置でのドリブル/パス精度
- 高さ:クロス時のエリア支配力
WB の要件
- ドリブル能力:相手 SB を個別に対応させる能力
- ボール保持時間:オーバーラップ完成までボール保持
- 視野:CB(L) のスプリント位置認識
チーム的要件
- 後方の安定性:CB(R) + CB(C) で 2 人 FW に対応
- 中央守備の充実:オーバーラップで CB が外へ出ても、MF でカバー
リスク評価
ロスト時のサイド裏露出
- CB(L) が外へ出ている状態でボール奪掠
- サイド裏が完全に空く
- 相手の速いウイングへの被カウンター確率:35-45%
逆サイドのリスク
- 全員が左サイドに寄っているため、右サイドが手薄
- 相手がロングボール or ロングスイッチで逆サイド攻撃
- 右サイドでの被シュート確率:20-30%
オフサイドトラップ
- CB(L) が高い位置に上がるため、オフサイドラインが前に上がる
- CB(R) + CB(C) でのオフサイド精度が低下する可能性
対策戦術
逆サイドカウンター
- 左へのオーバーラップに対し、右からのロング展開
- WB(R) vs CB(L) の数的優位(相手から見て)
CB(L) への前からのプレス
- CB(L) が外を回る直前に、相手 IH がプレス
- オーバーラップ完成前の奪掠
セットプレーでの対応
- CB(L) が高い位置にいる場合、セットプレー時の配置変更
- 深さのカバーを明確に
高度な応用
両サイド同時オーバーラップ
CB(L) と CB(R) が同時にオーバーラップ
→ 中央の CB(C) が 1 人で守備
→ リスク非常に高いが、相手を完全に圧倒可能
フェイク・オーバーラップ
- CB(L) がオーバーラップする素振り
- 実際には内側に戻る
- 相手の判断を混乱させる
ローテーション・オーバーラップ
- ゲーム進行に伴い、オーバーラップ実行 CB を交代
- 相手 WB を常時異なる状況に置く
現代的事例
シェフィールド・ユナイテッド
- クリス・ワイルダーの 3-5-2 システムでのオーバーラッピング CB
ウォルバーハンプトン
- ニュノ・エスピーニョの 3-4-3 での CB オーバーラップ
ローマ(モウリーニョ時代)
- 3CB システムでの積極的なサイド攻撃
実装ガイドライン
導入条件
- 3CB システムの採用
- 走力のあるワイドCBの配置
- WB の高度なドリブル能力
トレーニング内容
- CB のスプリント訓練:後方からの外側走路
- WB-CB 間でのコンビネーション:距離と角度の習得
- セットプレー時の CB 配置:オーバーラップ後の課題対応
使用頻度
- 試合内 3-5 回程度(5-10 分間隔)
- 逆サイドのリスクと のバランス管理
セーフティメカニズム
リスク軽減:
- 逆サイド WB の守備的位置付け:セーフティロール
- 中央 MF のサイドカバー:オーバーラップ時の中央守備補強
- セットプレー時の配置変更:オーバーラップ中は FK 警戒
結論
ワイドCBのオーバーラップは、3CB システムにおける最も効果的な「攻撃的リソース活用」戦術です。通常は守備専念の CB を攻撃に参加させることで、サイド局面での数的優位を実現。リスクと効果のバランスを正確に管理できれば、非常に有効な得点創出手段となります。
3バックシステムでの実践的運用
CBの体力配分とタイミング選択
ワイドCBのオーバーラップは体力消耗が激しいため、試合中の実行回数を厳密に管理する必要があります。統計的に、ワイドCBが外を回ってスプリントすると、通常の守備活動の2.5倍のエネルギーを消費します。そのため、1試合で実行できるのは4-6回が限界です。
実行タイミングの判断基準として、「相手の守備が後手に回っている瞬間」を選びます。具体的には、相手サイドバックが内側に絞っている、相手ウイングが守備に戻り切れていない、相手の中盤が横スライド中という3条件のうち2つ以上が揃った時です。訓練では、映像を使ってこれらの条件を0.5秒以内に判断する能力を養います。100回の判断訓練後、試合中も即座に実行可否を決定できるようになります。
WBとの連携タイミングの精密化
オーバーラップの成功は、WBとワイドCBのタイミング同期に完全に依存します。最も効果的なパターンは、WBがボールを受け取った0.8秒後にCBが外を回り始めることです。これより早いと相手が対応する時間を与え、遅いとWBがプレッシャーを受けて精度が落ちます。
この0.8秒という微妙なタイミングを習得するため、「カウント訓練」を実施します。WBがボール受け取り時に心の中で「1、2」とカウントし、「2」でCBが走り出すルールです。50回の成功後、このカウントは無意識化され、視覚的なトリガー(WBの体の向き、最初のタッチの方向)だけで自動的にタイミングを計れるようになります。
中央CBのカバーリング意識
ワイドCBが上がっている間、中央CBは2人のフォワードを1人で見る状況が発生します。このリスクを管理するため、中央CBに「ゾーン優先の守備」を徹底させます。個別のマンマークではなく、危険なスペース(ゴールから20m以内、中央15m幅)を最優先で守り、そのゾーンに侵入する相手を捕まえるという守備原則です。
訓練では、1v2の状況を意図的に作り、中央CBがどのようにポジションを取るべきか体得させます。重要なのは「ボールと両フォワードを同時に視界に入れる」角度です。この角度を保てば、どちらのフォワードが動いても0.3秒以内に対応できます。100回の1v2訓練後、この最適角度が身体に刻まれ、実戦でも冷静な判断ができます。
逆サイドのバランス管理
左のワイドCBがオーバーラップした時、右側のバランスが崩れやすくなります。対策として、右WBに「半分下がる」指示を出します。通常の攻撃位置から5m後退し、逆サイドのカウンターに備える位置取りです。この5mの調整により、カウンター時の対応確率が40%から70%に向上します。
訓練では、左右のバランスを視覚化するため、ピッチを縦に3分割した図を選手に見せます。左側が+2(WBとCBが上がる)なら、右側は-1(WBが下がる)、中央は±0(変化なし)というバランス方程式を徹底します。この数値的な理解により、選手は直感的にバランスを取れるようになります。
失敗時の緊急帰還プロトコル
オーバーラップ中にボールを失った場合、ワイドCBは最速で元の位置に戻る必要があります。しかし、全力で外を回った直後に全力で戻ることは体力的に不可能です。対策として、「ショートカット帰還」を訓練します。外を回ったルートではなく、ピッチ中央を斜めに横切って最短距離で戻る経路です。
この緊急帰還を訓練するため、オーバーラップ後に笛を吹き、3秒以内に元のCB位置から5m以内に戻ることを目標とします。最初は4.5秒かかりますが、50回の反復後には2.8秒まで短縮できます。この2.8秒という時間は、相手のカウンター準備時間(平均3.5秒)より短く、致命的な失点を防げます。