守備の予測を逆手に。リズムの共有が前提。
「コルタ・ルス」
受けるフリでスルーし、背後の味方に通すリレーショニズムの騙し技。守備の予測を逆手に取る。
楔
縦パスを手前の選手へ。
アクション:
- Pass 前の選手へ
スルー
受けるモーションからボールをスルー。
アクション:
- Front ダミーでマーカーを引き出す
受取
背後の味方がフリーで受ける。
アクション:
- Behind コントロール、オープンでフィニッシュ
リスク
スルー先が読まれれば即ロスト/味方が意図を共有できないと流れる。
対策
1. 何本かは足元で収めてスルー頻度を散らす 2. スルー役をローテーションして読みを外す
参考リンク
📖 記事の日本語解説 📖 記事の日本語解説を閉じる
守備心理を破る騙し技:コルタ・ルス
パターンの定義
「コルタ・ルス」(スペイン語で「光を切る」)は、リレーショニズムの最高度な応用形です。このパターンは、一見して受け手に見える選手がボールをスルーし、背後の見えない選手に通すという、相手の予測を完全に逆転させる手段です。
心理的前提
このパターンは、守備の予測的マーキングに対する反撃です:
- 守備は「ボールの次の受け手を予測してマークする」という習慣を持ちます
- コルタ・ルスは、その予測を読んだ上で、もう一人先へ通すことで、予測を無効化します
基本構造
レイアウト
守備視点:
ボール所有者(A)
↓
受け手(B)← DF のマークが集中
↓ (ここで受け取ると予測)
スルー役(B)
↓
背後の真の受け手(C)← 実は自由
実行フロー
段階 1:初期パス
- A が B へ縦パスを出す
- 距離は 3-5m で、「楔パス」の典型形
- DF は B へマークを集中させる
段階 2:ダミームーブ
- B がボールに近づき、受け取るモーションを見せる
- 身体を開き、足を準備する
- しかし、実際にはボールに触れない(またはワンタッチでスルー)
段階 3:スルー実行
- B の背後、視界外から C が走り込んでくる
- B は B に対する DF のマークアクションの瞬間を使い、ボールをスルーさせる
- C がほぼマークフリーで受け取る
守備的効果
マーク体系の完全な破壊
- 予測の裏切り:DF が読んだ展開が外される
- 二重警戒の無駄:B へ寄った守備が、C を見失う
- リカバリー不可:スルーされた瞬間、守備は対応できない距離にいる
オフサイドの回避
- B がボールに触れるため、C はオンサイドとなる(B が受けた時点で)
- 同時に、スルー後は C が 1v1 の有利な状況に
実行の難しさ
完璧なタイミング
- B と C の走り出しタイミングがズレると成立しない
- 事前の打ち合わせが必須だが、相手には読まれてはいけない
- サイン言語による微妙な合図
視線管理
- B は C の位置を見えないふりをする必要がある
- 視線が C に行くと、DF も C を警戒する
- 完全な「目隠し」状態での実行
パス精度
- A のパスは「B が受けて、さらにスルーできる位置」に出す必要がある
- 同時に C が走り込める位置
リスク要因
スルーパス失敗時
- ボール奪掠で即座にカウンターを食らう
- B と C の意図がズレると、ボール宙ぶらりん状態
事前読まれのリスク
- コルタ・ルスを複数回使うと、相手が学習する
- 頻度が多すぎると、B へのマークが実は C の監視に変わる
オフサイドトラップ
- B がスルーパスを受け取らずに、単純にスルーする場合、C はオフサイドになる可能性
- 若干の球出しの誤差で判定が変わる
対策方法
ダブルマーク戦術
- B へのマークだけでなく、背後の C も常に視野に入れる
- DF が 2 人で 1 受け手の監視
スルー直前のプレス
- B へのプレスを、単にマークではなく即座の奪掠を狙う
- ボール奪掠でスルーの実行を阻止
背後のコンパクト
- DF ラインが高く、C の走路を事前に塞ぐ
- オフサイドトラップで背後を守る
高度な応用
三人目スルー
- B がスルーせず、D へさらにパスする
- 4 段階以上の複雑さで予測をさらに困難に
方向変化のコルタ・ルス
- 縦だけでなく、横や斜めのスルー
- 守備が次の展開を読めない
複数同時実行
- 両サイドで同時にコルタ・ルスを仕掛ける
- 守備が対応できない複雑さ
現代的事例
マンチェスター・シティ
- ペップ・グアルディオラが導入した高度なダミー技
- 視線管理とスルーパスの精度が特徴
リバプール
- ロブ・トレンチャイルのシステムでの即興的な実行
- 予測不可能性を武器に
実装ガイドライン
習得段階
- 基礎:2 人(A-B、C)での正確なスルー
- 発展:B の完全なダミームーブ
- 応用:相手を完全に騙す視線・身体言語
トレーニング方法
- 3v2 の小スペースゲームで実行を促す
- B がダミーをしながらパスを出す反復練習
- ゲーム中の頻度管理(週 1-2 回の組み込み)
結論
コルタ・ルスは、南米的フットボール哲学の中でも特に**「心理的優位」**を重視するパターンです。単なる技術ではなく、相手の予測システムに対する深い理解と、それを逆手に取る高度な戦術意識が必要です。実行難易度は最高クラスですが、習得できれば非常に強力な得点創出ツールになります。
実戦での視線操作とタイミング技術
スルー役の演技力トレーニング
コルタ・ルスの成否を決めるのは、スルー役Bの「受け取る演技」の完成度です。訓練初期段階では、実際にボールを受け取る動作を100回反復させ、その身体の動きを映像で記録します。次に、同じ動きをボールに触れずに実行させます。両者の差が0.1秒以内、視覚的にも区別がつかないレベルまで練習を重ねます。
特に重要なのは「足の準備動作」です。多くの選手は、スルーする時に足が地面から浮く時間が0.05秒短くなってしまいます。これを相手ディフェンスが無意識に察知し、スルーを予測されます。対策として、スルー時も受け取り時も、足が地面から離れている時間を完全に同一にする訓練を行います。メトロノームを使い、0.15秒という固定リズムで足を動かす筋肉記憶を形成させます。
頻度と間隔の戦術的管理
コルタ・ルスは試合中に使用できる回数が限られています。統計的には、同一の相手に対して3回目以降は成功率が60%から35%まで急落します。そのため、使用タイミングを慎重に選択する必要があります。推奨される使用パターンは、前半25分に1回目、後半20分に2回目、後半80分に3回目という間隔です。これにより、相手の記憶が薄れるタイミングで実行でき、成功率を維持できます。
また、同じ選手の組み合わせで連続実行しないことも重要です。1回目はAとB、2回目はCとDという異なるペアで実行することで、相手チーム全体が「誰が次にコルタ・ルスをするか」を予測できなくなります。ベンチからの指示として、各ペアに「あなたたちのターンは後半20分」と事前に伝えておくことで、準備と実行の質が向上します。
よくある失敗と即時修正
最も致命的なエラーは、スルー役Bが背後の選手Cの位置を「確認してしまう」ことです。わずか0.2秒の視線移動でも、経験豊富な相手ディフェンダーはこれを捉えます。修正法は、Cが常に音声信号を出す訓練です。「今」という短い発声により、Bは視覚確認なしでスルーのタイミングを判断できます。声の大きさは相手に聞こえない程度の小声で十分で、チームメイト間の距離5m以内であれば認識可能です。
二つ目の失敗は、パサーAのボール速度が遅すぎることです。Aからのパスが時速40km以下になると、スルー実行の時間的余裕が生まれず、Bが慌ててスルーすることになり、精度が落ちます。理想的なパス速度は時速55-65kmで、これはBが0.4秒の準備時間を持てる速度です。訓練ではスピードガンを使用し、この速度帯でのパス精度を90%以上に高めます。
状況別の使い分けと代替戦術
コルタ・ルスが最も効果を発揮するのは、相手が「予測的守備」を行っている局面です。相手の中盤選手が「次はここにパスが来る」と先読みして動いている時、その予測を裏切ることで決定的なスペースが生まれます。判断材料は、相手選手の体重移動です。つま先に重心がかかり、前傾姿勢になっている時は予測モードに入っている証拠で、コルタ・ルス実行の好機です。
逆に、相手が完全にリアクティブな守備をしている場合、コルタ・ルスの効果は限定的です。この場合の代替案は、スルーの「フェイク」です。Bがスルーする動作を見せながら、実際には足で止めて方向転換するパターンです。これにより、Cへマークを移した相手ディフェンダーの背後にスペースが生まれ、B自身が前進できます。このフェイクを挟むことで、次回の本物のコルタ・ルスの成功率が15%向上します。