実践での使い方
ダブルポケットは、左右両方のポケット(CB-SB間のハーフスペース奥)へ同時に走り込むことで、DFラインを物理的に押し下げ、バイタルエリア(ゾーン14)を空ける戦術である。DFラインは後方へのランを放置できないため、両サイドから同時に走り込まれると、ライン全体が下がらざるを得ない。この結果、バイタルエリアに広大なスペースが生まれ、そこで次の選手がフリーでボールを受け、シュートまたは最終パスを送れる。実行時には、両サイドのランナーが「同時に」スタートすることが重要である。片方だけが走ると、守備は片側をケアすれば済むが、両方が同時に走ると、守備はどちらも放置できず、ライン全体が下がる。また、ランの「深さ」も重要で、浅いランではラインは下がらない。最低でもオフサイドライン付近まで走り込むことで、守備に「下がらざるを得ない」状況を作る。
トレーニング方法と技術要件
練習では、2人のランナーが同時にポケットへ走る→中央の選手がバイタルでフリーになる、の連鎖を反復する。ランナーには「タイミングの同期」と「スプリント力」が求められる。練習では、「笛の合図で同時スタート」など、タイミングを統一する訓練を行う。また、中央で受ける選手には「ラインが下がった瞬間にバイタルへ侵入する」タイミング感覚が必要で、ランナーが走り始めた0.5秒後にバイタルへ移動を開始する習慣を身につける。パサーには「3つの選択肢(左ポケット/右ポケット/中央バイタル)を同時に視野に入れる」能力が求められ、最も効果的な選択肢へパスを送る判断力を養う。
使用タイミングと代替案
このパターンは、相手が「ハイライン」で守る場合に特に有効である。ラインが高い位置にあるほど、ポケットへのランでラインを押し下げる効果が大きく、バイタルのスペースも広くなる。一方、相手が既に低いブロックで守っている場合、ラインを押し下げる余地がなく、効果は限定的である。この場合の代替策は「タイミングをずらす」ことである。片側が先に走り、守備がそちらに反応した瞬間に、もう片側が遅れて走る二段構えにする。これにより、守備の注意を分散させ、どちらかのランが通る可能性を高める。また、「中央に一人残してセカンド回収を担保する」ことも重要で、両サイドが走った際、中央のフォローがないとロスト時にカウンターを食らうリスクがある。
よくある失敗と修正方法
最も多い失敗は「タイミングがずれる」ことである。片方が早く走りすぎ、もう片方が遅れると、守備は片方ずつ対応でき、ライン全体を下げる効果が薄れる。修正方法は「同時スタートの合図を明確化する」ことである。例えば「パサーがボールをコントロールした瞬間」など、視覚的な合図を設定し、両ランナーが同じタイミングで走る習慣を身につける。第二の失敗は「オフサイドになる」ことである。同時侵入の興奮から、オフサイドラインを超えるケースが多い。修正方法は「パサーがボールを蹴る前はラインを超えない」基本ルールを徹底し、オフサイドトラップを回避する。第三の失敗は「バイタルの選手が動かない」ことで、ラインが下がってスペースが空いても、誰もそこに入らない。修正方法は「ランナーが走り始めたら、中央の選手は必ずバイタルへ侵入する」ルールを設定し、スペースの活用を自動化する。
バリエーションと応用
基本形は「両ポケットへの同時侵入」だが、「片方はポケット、片方は中央」という変化もある。左ポケットと中央への同時侵入により、守備は「ポケットと中央」の二方向を同時にケアしなければならず、混乱が増幅する。また、「三方向同時侵入」への拡張も可能で、両ポケット+中央の計3人が同時に走ることで、守備は完全に対応不能になる。ただし、リスクも高まるため、カウンター対策として後方に最低1人は残すべきである。マンチェスター・シティやリヴァプールは、このダブルポケットを頻繁に使用する。サラーとディアスが両ポケットへ走り、ヌニェスまたはジョタが中央のバイタルでフリーになる形を作り、数多くの得点を生み出している。このパターンは「物理的にラインを動かす」原理を体現し、守備の構造的弱点を突く高度な崩しパターンである。