実践での使い方
ピン留めと斜めランは、CFが中央でCBを固定(ピン留め)し、その結果開いたチャンネル(CB-SB間)へIHまたはWGが斜めに走り込む崩しパターンである。CFは「触らなくても機能する」存在として、単に中央に立つだけでCBを拘束する。CBがCFを放置して前に出れば、CFへ縦パスが入る脅威があるため、CBは下がらざるを得ない。この結果、CB-SB間のチャンネルが開き、IHの斜めランが通る。実行時には、CFの「動かない勇気」が重要である。多くのCFは「ボールに関与したい」衝動から動いてしまうが、ピン留めでは逆に「動かずに中央に立ち続ける」ことで守備を拘束する。また、IHのランは「CBの視野外から」開始することで、CBが認識する前に裏を取れる。
トレーニング方法と技術要件
練習では、CFが中央に立つ→IHが斜めに走る→パサーがスルーパスを出す、の一連の流れを反復する。CFには「正しい位置に立つ」能力が求められる。CB間の真ん中に立つことで、両CBを同時に拘束する。また、CBが前に出そうな素振りを見せたら、わずかに深い位置へ移動して「縦パスの脅威」を再提示する動的なポジショニングも重要である。IHには「ランのタイミング」と「スピード」が求められる。パサーがボールを持った瞬間にスタートし、最大速度でチャンネルへ侵入する。また、パサーには「CFとIHの両方を視野に入れる」能力が必要で、どちらが最適な選択肢かを瞬時に判断する。
使用タイミングと代替案
このパターンは、相手CBが「CFを厳しくマーク」する習性を持つ場合に特に有効である。CFに意識を集中させることで、チャンネルが自然に空く。一方、相手がゾーンディフェンスで「CFを放置してスペースだけを守る」場合、ピン留めは機能しない。この場合の代替策は「CFを止めて拘束を強める」ことである。動かずに中央に立ち続けることで、CBが「放置すれば縦パスが入る」と判断し、マークに出ざるを得ない状況を作る。また、「WGのインナーラップとの併用」も有効で、IHの斜めランとWGの内走を同時に発動することで、チャンネルと中央の両方を脅かし、守備の混乱を最大化する。
よくある失敗と修正方法
最も多い失敗は「CFが動きすぎる」ことである。CFがサイドへ流れたり、中盤に降りたりすると、CBは解放され、チャンネルを埋める余裕が生まれる。修正方法は、CFに「CB間から5メートル以上離れない」ルールを設定し、常に中央で拘束し続ける習慣をつける。第二の失敗は「IHのランが早すぎる」ことで、オフサイドラインを超えてしまう。修正方法は「パサーがボールをコントロールした瞬間にスタート」というタイミングルールを徹底し、オフサイドを回避する。第三の失敗は「パサーがCFばかり見る」ことで、IHの完璧なランを見逃す。修正方法は、パサーに「常にCFとIHの両方をスキャンする」習慣をつけさせ、最適な選択肢を選ぶ訓練をする。
バリエーションと応用
基本形はIHの斜めランだが、「WGの内走」も組み合わせられる。CFが中央を固定し、IHがチャンネルへ走り、同時にWGが中央へ内走することで、守備は三方向の脅威に対応しなければならず、必ずどこかに穴が生まれる。また、「CFを二人化する」応用もある。2トップの両方がCB間に立つことで、チャンネルが両サイドで同時に開き、IHの選択肢が倍増する。マンチェスター・シティのハーランドは、このピン留めの完璧な実行者である。彼は中央に立ち続け、CBを拘束し、フォーデンやグリーリッシュが空いたチャンネルへ走り込む形を頻繁に作る。このパターンは「CFの存在価値は得点だけではない」ことを示し、触らずとも味方を活かす利他的な役割を体現する戦術である。